Daybreak
曲 SAM 様 (1:54) 膝を抱え震えていた幼い日々を 焔のような激しい怒りが剥かした 隣り合わせの恐怖を照らす赤い光 闇夜でさえもう二度と戻らない それはいつか掴むと知っていた 僕にそっと 悲しげに囁くよ 過去に残した君 微かに消えて行くのは 幻の痛みだろうか どうして最期の夢 受け取れなかった? さよなら 君が愛した この儚い世界でさえ こぼれ落ちた滴を 受け止められないだろう 行灯を手にした女性が一人、呆然と立ちつくしている。そこへ兇刃がぎらりと光った。 何も考えられなかった。条件反射で刀を引き抜き、女性に襲いかかる太刀を払いのける。刀を抜いたのは初めてだった。 父の形見の刀に弾き返された相手の刀はがちん、と鈍い音を立てて途中からぽっきりと折れた。だが手練らしい相手の一撃は手が痺れる程重く、僕の身体は軽々吹き飛ばされていた。 落とした提灯が煌々と燃えさかり、街道の向こうで立ちすくむ大男と、その足下の何かを照らしている。 「あ……あァ、誰か、誰かァ!」 行灯を湛えた女性が再び叫んだ。彼女ではない、向かいの宿の女将だった。では、あれは誰だ? 提灯は自らの身を燃料に、燃えさかる。その向こうで横たわる女、真っ赤な血を流すあれは、あれこそ僕の大切な、 「お香!」 身体を貫いたのは痛む怒りの焔だった。 「おのれ」 じんじん痛む手の痺れも、初めて抜いた刀の重さも、全てサアっと冷えて消えた。 折れた刀を手に、仇の男は身を翻した。 その背を一太刀の元に切り下ろしてしまいたい。 「逃がさぬ!」 猛然と刀を振りかざし走り出した。しかし、 「お待ちよ、涼太郎……」 消えそうな提灯の火の側で、消えそうな声でお香が呼んだ。振り返って彼女の寂しい顔を覗き込むと、火と血の匂いが肺へ流れ込んだ。息が詰まる。 そして燃えていた火が消えた。暗闇。 「お香? どうした、何が言いたい?」 星も月も無い真っ黒い夜、火の残り香と血の匂いだけが全てとなった。彼女はもう何も言わない。僕の頬を伝うのは涙だろうか? 彼女を本当にそこで死んでしまっているのだろうか? 何も見えない。 真っ暗な夜に意識まで全て飲み込まれてしまったかのようだった。今のは一体何だったのか、現実の出来事なのかどうかさえ判らない。悪い夢を見ていたのか、そんな幻さえ見なかったのか。 思考が空っぽになっていくようだ。だのに、僕の頬には熱いものがゆっくりと流れていく。僕に残されたのはその熱だけだった。 やがて顔を上げると、遠くで揺れる小さな赤い光が見えた。ゆっくりと近づいてくる。 それはさっき見た女将の手にした行灯の光だった。しかしそれは空っぽの頭に焼き付く光だった。 そうして僕はその日から炎の呪縛に囚われたのだ。 怒りは燃えさかる焚き火に似ている。恨みは静かに揺れる行灯だ。僕は夜を弱々しく照らす、行灯のような怨嗟をじっと見つめながら、仇を追って歩き続ける。 |
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