沈没記念
嘘吐きの街角に まやかしの人影が 君は惑わされずに生きたいと言うけれど 逃げられるの? 一つ開いた時間では 二つ踏み出せずにいる 三つ見つめて疑って 同じ顔? 四つ予感の絶望を 五ついつからいつまでも 六つ無理して抱えてる 君の名を呼ぶ ホントの世界では 君は酷く泣き虫だ 真実と気付いても認められずにいる 泣かないでよ Weightless fall I fall into a deep place It declines in purler 張りぼての夜なのに星は流れてゆくね 祈りより早く落ちる空虚な僕の声 聞こえている? 一つ数えて何所へでも 二つ数えて君の目は 三つ数えて知りたがる 繰り返す? 四つ数えてこの街で 五つ数えて生き延びて 六つ数えて終わりだと 知ってしまうよ 無重のnatural fall 画面に移された僕 孤独じゃない 0G z-axis's lose 誰もが気付かない振り Reality melts 張りぼての僕のため涙を流してる 君は惑わされずに生きたいと言うけれど 泣かないでよ 一つ数えて繰り返し 二つ数えて逆らって 三つ数えて歩いてる 君の跡 四つ数えてこの街で 五つ数えて生き延びて 六つ数えてその先へ 進んでゆける 落ちる速度を忘れない 底の底から見ているよ 張りぼての世界でも 僕の命が消えてても 泣かないで 思考は沈むのだ、重力の無い世界では。 脳にこびりついた記憶を剥がそうと、ここ×年間必死だった。瓦礫から身を起こした時から数えて、幾つもの喪失。 僕は砕けたコンクリートの破片の埃にむせび泣いていた。周囲にはぬらぬらした肉の塊が犇めいていた。 いや、本当は覚えていない。暗かった事しか覚えていない。誰かに助け出されて、そして僕がそうだったと知ったのだ。覚えていないのは幼かったからだ。 あれは八つの頃の、良く晴れた夏の日の事だった。 僕は夏の空を見ると切なくなるのだが、それは有る人間の事を思い出すからだ。忙しい親の代わりに、頻繁に僕の面倒を見てくれていた、××という名前の、確かその時、十八か、十七か、そのぐらいの年齢だった。 僕から見たら背が高く物知りで落ち着いた物腰の彼は、途方もなくえらい、素晴らしい人間のように思えた。穏やかな人だったような気がする。とにかくにっこり笑っている、という印象が残っている。 それが夏の空のような、素朴で突き抜けるような光をもった表情だった。 暫く会っていない。 今、生きているのかどうか。 おれは、自分の精神というものを失ったのだろうか? 自分の死を目の当たりにして。 再び暖かい地球の地面を踏みしめる事が出来ないと知った悲しみというか、喪失感。或いは、もう二度と紛争の混乱に巻き込まれずにすむと知った安堵。 どっちもどっちだ。おれは永遠に責任を失ったのだ。誰かに対する責任。おれはおれという適時消滅と誕生が可能な一つのプログラムになってしまった。 それを理解するまでに掛かった時間は、いったいどの位だったのだろう。最後の意識と最期の記録、そして現在の記録を見比べる。その空白の間、×年間全てか、もしくは一瞬の出来事か。判らない。×年間全て、おれはおれ自身の復活というびっくりするほどどうでもいい事に時間を掛けたのだろうか。判らない。 思考は正常だった。少なくとも異常を判断するだけの情報は無かった。それはおれが異常を認識出来なくなっていたからかもしれない。何にせよ真実はおれには到底判らない。 周囲を見渡す。体は見あたらない。 「不可視状態なんですよ」 「それは不都合ないのか?」 「よくないです。よくないですが、AIには特権があります」 「おれはAIか」 「そうなりました」 「お前と、他の子供たちもそうか」 「はい」 道案内のプログラムが頷いた。おれよりもずっと若い見た目。小学生ぐらい? でもおれよりも物を知っていそうで、真ん中がない。大切な真ん中を失って、体にみっしりと悲劇がつまった、戦時中の子供だ。おれも人の事は言えないが。 「可視状態になるといいことがある?」 「みんなに見えるようになります。見えないのはいないのと一緒です」 「みんなか」 繰り返して、おれは直ぐに背筋が冷えた。みんなって、誰だ? 「会いたい人に会えますね」 子供の一人がにこにこしながら言ったが、無理をして笑っているようにしか見えない。こいつら判って言っているんだろう。情報を間引かれた人間が、張りぼてと化した人間が、本物の人間に会ったところでどうなる。 「戦争終わったんだそうですよ。だからみんな、会いたい人に会えます。お兄さんも会えますね」 おれは仕方なく頷いた。子供たちは泣き笑いだった。瓦礫の中に残してきた××を思い出す。おれの最期に泣かなかっただろうか? 会って確かめる? おれも泣き笑いだった。 |
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